夢の途中で、ふと「あれ、これは夢だ」と気づいたことはありませんか。そのまま空を飛んでみたり、景色を変えようとしたりした経験がある人もいるかもしれませんね。こうした夢は「明晰夢(めいせきむ)」と呼ばれ、睡眠の研究でも実際に起きている現象として扱われています。一方で、「見る方法を試すと危ない」「起きられなくなる」といった話も広まっています。ここでは、明晰夢が何なのか、研究でどこまでわかっているのか、見る方法と安全に付き合うための注意点を、確かめられていることと仮説を分けて解説します。
明晰夢は、眠ったまま「これは夢だ」と気づいている夢です。見られるかは人によって違い、必ず見られる方法はありません。
明晰夢がどういうものかを知りたいなら明晰夢とは、見る方法を知りたいなら明晰夢を見る方法と科学的な根拠、安全性が気になるなら明晰夢は危険なのかから読むと早くたどり着けます。
なお、明晰夢の中で起きた出来事や、明晰夢を見たことが夢占いでどんな意味を持つかは明晰夢の夢占いでの意味で扱っています。この記事は、明晰夢そのものの仕組みと、見る方法・安全性に絞って解説します。
明晰夢とは?夢の中で「これは夢だ」と気づく状態
明晰夢の定義
明晰夢とは、眠って夢を見ている最中に、自分が夢を見ていると自覚している状態の夢のことです。英語では「ルシッド・ドリーム(lucid dream)」と呼ばれます。普通の夢では、どれほど不思議な出来事が起きても、夢の中の自分はそれを現実だと思い込んでいます。明晰夢では、その思い込みが外れ、「ここは夢の中だ」とわかったうえで夢が続きます。気づいた瞬間に目が覚めてしまうことも多く、数秒しか続かない明晰夢も珍しくありません。夢の中の出来事を思い通りに動かせることは、明晰夢の条件ではない点も押さえておきたいところです。
明晰夢を見たことがある人はどのくらい?
明晰夢は、特別な人だけが見る夢ではありません。1966年から2016年までの調査をまとめて分析した研究では、一生のうちに少なくとも一度は明晰夢を経験した人は約55%、月に1回以上見る人は約23%と推定されています。つまり、半分ほどの人は、気づかないうちに一度は明晰夢を見ている可能性があるということです。ただし、毎晩のように見る人は少数で、見たことがない人がいても不思議ではありません。見たことがないからといって、眠りや心に問題があるわけではないので安心してください。
研究で確かめられていること
明晰夢が「起きてから作った思い込み」ではないかと考えられていた時期もありました。1981年の研究では、夢の中で気づいたら決めておいた目の動きで合図を送るよう参加者に頼み、睡眠中の記録で、レム睡眠のさなかにその合図が現れることが確かめられています。眠っている間は体の筋肉がほとんど動きませんが、目の動きは保たれているため、この方法が使えたのです。さらに2021年に報告された研究では、明晰夢の最中の参加者に外から質問を送り、目の動きや表情筋で答えてもらう実験が行われ、簡単な計算に正しく答えた例も記録されました。ただし、はっきりした答えが返ってきたのは一部の試行にとどまっています。
普通の夢・夢をコントロールすることとの違い
普通の夢との違い
普通の夢と明晰夢のいちばんの違いは、夢の中の自分が「今は夢だ」と知っているかどうかです。夢の内容が鮮やかかどうか、色がついているかどうかとは関係がありません。どんなにリアルな夢でも、夢の中で現実だと信じていれば普通の夢です。反対に、ぼんやりした夢でも、途中で「これは夢だ」と気づけば明晰夢になります。目が覚めてから「夢みたいにはっきりしていた」と感じる夢は、明晰夢ではなく、記憶に残りやすい普通の夢であることも多いものです。見分けるときは、夢の最中に夢だと気づいていたかを思い出してみてください。
気づくことと、夢を操ることは別
明晰夢というと「好きな夢を自由に見られる」というイメージが強いかもしれません。しかし、気づくことと操ることは別の話です。明晰夢についての研究を整理した論文でも、明晰夢の多くは夢の出来事を思い通りに動かせる状態ではないと指摘されています。夢だと気づいても、場面が勝手に進んでいく、飛ぼうとしても体が重い、ということは珍しくありません。夢を操れなかったからといって、やり方が間違っているわけではないのです。操れたかどうかより、まず「気づけたか」を基準に考えると、明晰夢との付き合い方が楽になります。
金縛りや「夢の中で目覚める夢」との違い
明晰夢とまぎらわしいのが、金縛りや、夢の中で目覚めたと思ったらまだ夢だった、という体験です。金縛りは、意識は目覚めかけているのに体が動かせない状態で、怖い気配や音を感じることがあります。明晰夢は夢の中にいることを自覚している状態なので、体が動かない感覚は必ずしも伴いません。ただ、どちらも眠りと目覚めの境目で起きやすいため、明晰夢を試しているうちに金縛りを経験したと話す人もいます。金縛りの夢が象徴する意味が気になる場合は金縛りにあう夢も参考になります。
明晰夢を見る方法と科学的な根拠
まず知っておきたい研究の結論
明晰夢を見る方法はたくさん紹介されていますが、最初に知っておきたいのは、確実な方法はまだ見つかっていないということです。35件の研究を検討した2012年の系統的レビューでは、どの方法も、確実かつ安定して明晰夢を引き起こすとは確認されていないと結論づけられています。研究の多くは人数が少なかったり、方法の質が十分でなかったりしたためです。そのうえで、いくつかの方法は有望だとも述べられています。以下で紹介する方法は「試すと見やすくなる可能性がある」ものであり、効果には大きな個人差があると考えてください。
夢日記で夢を思い出す力を育てる
明晰夢の練習でよく最初に勧められるのが、夢日記です。目覚めてすぐに夢を書き留める習慣は、夢を思い出す力を育てることにつながると言われています。明晰夢を見ても、目覚めたあとに覚えていなければ「見なかった」のと同じになってしまうため、思い出す力は土台になります。また、記録を読み返すと、自分の夢に繰り返し現れる舞台や出来事の傾向が見えてきます。その「いつもの夢」に夢の中で気づけると、明晰夢のきっかけになる、という考え方です。夢日記そのものに明晰夢を起こす効果が確かめられているわけではない点は、区別しておきましょう。
リアリティチェック(現実確認)
リアリティチェックは、起きている間に「今は夢ではないか」と確かめる習慣をつける方法です。たとえば、文字を一度読んで目をそらし、もう一度読んで同じかどうかを見る、時計を二度見る、といった確かめ方がよく紹介されます。夢の中では文字や数字が変わりやすいと言われているためです。日中にこの確認を何度も行っていると、夢の中でも同じ確認をして「夢だ」と気づくことがある、という狙いです。ただし、リアリティチェックだけで明晰夢が増えることは研究では十分に確かめられておらず、ほかの方法と組み合わせて紹介されることがほとんどです。
MILD(寝る前に意図を言い聞かせる方法)
MILDは、眠りにつく前に「次に夢を見たら、夢だと気づく」と心の中で繰り返し、最近見た夢の場面で自分が気づいている様子を思い浮かべる方法です。目覚めたときに思い出した夢を使って行うことが多く、研究の中でも比較的よく調べられてきた方法の一つです。2017年にオーストラリアで行われた169人の研究では、リアリティチェック、二度寝を使う方法、MILDを組み合わせて練習した週に、練習しなかった週より明晰夢の報告が増えたとされています。この研究では、方法を終えてから眠りにつくまでの時間なども結果に影響したと報告されています。ただし、期間は短く、本人の記録にもとづく結果である点には注意が必要です。
二度寝を使う方法(WBTB)とその注意点
WBTB(ウェイク・バック・トゥ・ベッド)は、明け方に一度起きて短い時間を過ごし、もう一度眠ることで、夢の多い時間帯に意識を向けやすくする方法です。上のMILDと組み合わせて紹介されることがよくあります。ただ、目覚ましで夜中や明け方に起きる方法は、睡眠を途中で区切ることになります。研究者の論考でも、意図的に起きる方法は睡眠を細切れにし、睡眠時間を減らすおそれがあると注意が呼びかけられています。仕事や学校のある日に行う、何日も続けて行う、といった使い方は避け、休日に一度だけ試す程度にとどめるのが無難です。
明晰夢は危険なのか
「危険」と言われる理由
明晰夢そのものは、多くの人が一度は経験する自然な現象です。危険かどうかで注意したいのは、明晰夢を見ること自体よりも、見ようとして睡眠を削ったり、何度も起きたりする練習のほうです。研究者の論考では、明晰夢を増やすための練習が普段の睡眠に悪い影響を与える可能性に注意が呼びかけられており、そうした副作用についての知識はまだ足りないとされています。つまり「危険だと証明された」わけでも「安全だと証明された」わけでもなく、わかっていないことが多いというのが現在の状況です。眠りを犠牲にしてまで試す価値があるかは、慎重に考えたいところです。
睡眠の質や心への影響は?
明晰夢の練習を頻繁に続けることについて、研究を整理した論文では、睡眠の質が下がる可能性と、現実と空想の境目があいまいになる可能性が、理論上の懸念として挙げられています。また、明晰夢をよく見る人ほど睡眠の質が低いという関連を示した調査もあります。ただ、これらは関連や可能性の指摘で、明晰夢が原因で睡眠の質が下がると確かめられたわけではありません。その一方で、明晰夢と心の健康の良い関係を示す報告もあり、全体としては結論が出ていません。気分が落ち込んでいる時期や、強いストレスを抱えている時期は、無理に練習しないほうが安心です。
明晰夢から起きられなくなることはある?
「明晰夢から抜け出せなくなる」という話を心配する人もいますが、明晰夢の中に閉じ込められて目覚められなくなる、ということが確かめられた例は見当たりません。実際には、夢だと気づいた途端に目が覚めてしまうことのほうがよく起こります。ただ、目覚めたと思ったらまだ夢だった、という体験が続いたり、目覚めの境目で金縛りのような状態を経験したりして、怖さを感じる人はいます。こうした体験がつらい場合は、練習をやめて普段どおりの睡眠に戻すことを優先してください。
悪夢の改善に使えるのか
明晰夢は、悪夢に悩む人の助けになるかもしれないとして研究されてきました。夢の中で「これは夢だ」と気づければ、怖い場面を怖くないものとして受け止め直せる、という考え方です。ただ、この方法を調べた研究をまとめたレビューでは、関連する研究は10件と少なく、結果も一貫していないとされています。悪夢への対処としては、イメージ・リハーサル療法のように睡眠を妨げずに行う方法のほうが、効果を裏づける研究が積み重なっています。悪夢が続いて眠るのが怖い、日中の生活に支障が出ている、という場合は、自己流で明晰夢を試すより、医療機関に相談してください。
睡眠の質を損なわないための注意点
睡眠時間を削らない
明晰夢を試すときに、いちばん守りたいのは睡眠時間です。明晰夢を見たい気持ちが強いと、遅くまで練習したり、早く起きて記録したりと、眠る時間がどんどん削られていきがちです。しかし、睡眠が足りない状態が続くと、日中の集中力や気分に影響が出やすくなります。明晰夢は、十分に眠ったうえで「見られたら面白い」くらいの気持ちで付き合うのがちょうどよいものです。練習は、普段の睡眠時間を確保できる範囲だけで行うと決めておきましょう。
目覚ましで何度も起きる方法は続けない
夜中に何度も目覚ましをかけて起きる方法は、睡眠を細かく区切ってしまいます。一度だけ試してみるならまだしも、毎晩のように続けると、疲れがたまりやすくなります。二度寝を使う方法を試すとしても、翌日に予定のない日に限り、一晩に一回までにとどめるのが安心です。朝起きたときにだるさが残る、昼間に強い眠気が出る、といった変化があれば、方法が体に合っていないサインと受け取ってください。そのときは、夢日記やリアリティチェックのように、睡眠を区切らない方法だけに切り替えましょう。
やめどきと相談の目安
明晰夢の練習は、楽しめているうちは続けてかまいませんが、次のようなときはやめどきです。眠りにつくのが怖くなった、夢と現実の区別に不安を感じるようになった、悪夢や金縛りが増えた、寝ても疲れが取れない、といった状態です。練習をやめても不調が続く場合や、悪夢や睡眠の不調が何週間も続く場合は、睡眠外来や心療内科などの医療機関に相談してください。夢や眠りの悩みは、ひとりで抱え込まずに専門家に話してよいものです。
明晰夢でよく聞かれる疑問
Q. 明晰夢は誰でも見られますか?
A. 半分ほどの人が一生に一度は経験すると推定されていますが、練習すれば誰でも見られるとは言えません。確実に明晰夢を起こせる方法は、研究ではまだ確認されていません。見られないことは異常ではないので、気にしすぎないでください。
Q. 明晰夢を見たら、何をしてもいいのですか?
A. 夢の中の出来事が現実の誰かを傷つけることはありません。ただ、怖い場面に踏み込むと悪夢に変わることもあるので、不安を感じたら目を覚ますことを優先して大丈夫です。目を閉じる、まばたきをするなどで目覚めやすくなると言う人もいます。
Q. 明晰夢を見るのは良いことですか?悪いことですか?
A. 明晰夢を見ること自体は自然な現象で、良い悪いで決めるものではありません。注意が必要なのは、見るために睡眠を削る練習を続けることです。眠りを大切にしたうえで、たまに見られたら楽しむくらいの距離感がおすすめです。
明晰夢は、半分ほどの人が一度は経験する身近な現象でありながら、見る方法や安全性については研究の途中にあるテーマです。気づけた夢を楽しみつつ、睡眠を削らないことをいちばんに考えれば、明晰夢と上手に付き合っていけます。
明晰夢の中で空を飛んだ、誰かと話したなど、夢で起きた出来事の意味が気になったら、明晰夢の夢占いでの意味で場面ごとの読み解き方を確かめてみてください。
参考にした研究・資料
- LaBerge, S. P. ほか(1981)「Lucid dreaming verified by volitional communication during REM sleep」Perceptual and Motor Skills 52(3) — 書誌情報
- Saunders, D. T. ほか(2016)「Lucid dreaming incidence: a quality effects meta-analysis of 50 years of research」Consciousness and Cognition 43 — 書誌情報
- Konkoly, K. R. ほか(2021)「Real-time dialogue between experimenters and dreamers during REM sleep」Current Biology — 論文
- Stumbrys, T. ほか(2012)「Induction of lucid dreams: a systematic review of evidence」Consciousness and Cognition 21(3) — 書誌情報
- Aspy(現 Adventure-Heart), D. J. ほか(2017)「Reality testing and the mnemonic induction of lucid dreams」Dreaming 27(3) — 書誌情報
- Vallat, R. & Ruby, P. M.(2019)「Is It a Good Idea to Cultivate Lucid Dreaming?」Frontiers in Psychology — 全文
- Soffer-Dudek, N.(2020)「Are Lucid Dreams Good for Us? Are We Asking the Right Question?」Frontiers in Neuroscience — 全文
- de Macêdo, T. C. F. ほか(2019)「My Dream, My Rules: Can Lucid Dreaming Treat Nightmares?」Frontiers in Psychology — 全文
